【小畠涼・福田空】VOL.① 診察室から、暮らしの中へ。家で「よかったね」と笑える日々を支える在宅医療とは?

病気を抱えながら、家で暮らし続けたい。そう願う人のそばには、どんな医療があるのだろう。

神戸市西区・垂水区・明石市を拠点に、16年にわたって訪問診療を続けてきた向原クリニック。訪問診療とは、通院が難しくなった患者さんの家を医師が定期的に訪ね、診察する医療のことだ。


がんの末期、認知症、パーキンソン病をはじめとした神経難病、慢性の心臓病、人工呼吸器をご自宅で管理されている方など、患者さんは病気とともにご自宅で過ごされている。診察室では、病気を取り出して診ることができるが、家には、その人の暮らしがまるごとある。家族との関係も、長く築き上げてきた習慣が当たり前のようにあるのだ。その場において、治療することと、暮らし続けることは、いつも同じ方向を向いているとは限らない。 


 小畠院長と福田医師は、その間に立ち続けながら何を想うのか。二人はなぜ在宅医療を選び、何を見ているのだろうか。 医療と暮らしの中に立つ現場からの声をお伺いした。

(取材/はぎのあきこ)


命は救えたけど、肩は?

ーお二人は、なぜ在宅医療の道にすすまれたのでしょうか?


小畠院長 病院の医療って、正解が一個のことが多いように思うんです。というのは、「治すべき」だというものです。それに対して、正しいかどうかではなくて、正解が一個なら、別に僕がやらなくてもいいんじゃないか、と思ったんです。誰がやってもいいわけですよね。


そう考えて、正解がそんなにはっきりしていない精神科に、最初は興味があったんですよ。 学生の頃、臨地実習で精神科を回ったとき、精神科の訪問看護師さんに同行させてもらって、初めて患者さんのお家に行きました。「ああ、こういうところで暮らしてはるんや」と、初めて患者さんのことを知れた気がしたんです。あの感覚が原点です。


福田医師 僕は、診察室でのやりとりがきっかけです。ある患者さんで、肩が痛くて、なかなか治らないから病院に来られた方がいらっしゃいました。それで、検査をすすめたら、初期の胃がんが見つかったんですね。早く手術できて、それは良かった。


でも、その時、「肩は?」と思ったんですよね。 肩と胃は、多分関係ない。ただ、その方が困って病院に来たのは肩なのに、がんの治療が優先されて進んでいく。命は救えたけど、肩は?と。そこが、どうしても気になりました。僕は、その方の困りごとの解決を、最後まで見届けたいんだということが分かりました。それが在宅医療なら自然にできる。在宅医療は、その視点こそ大切にしているからですかね。



正解が一つではない、ということ

ー 開院から16年。どんな患者さんを支えてこられましたか? 


小畠院長 患者さんに多いのは、がん末期、認知症、神経難病などの病気をもちながら、ご自宅で療養されている方々です。僕は個人的に、認知症の方が暮らしを続けていくことに、より重要性を感じています。 


ー 具体的には、どのようなことから重要性を感じられているのでしょうか?


小畠院長 認知症って、家庭不和の火種になりやすいんです。昔、精神科の病院で、娘さんの腕に噛みついて大怪我をさせてしまった患者さんがおられました。娘さんは、ショックもあったのでしょう。「もう関わりたくない」とおっしゃって、以降はずっと病院で過ごされた患者さんがおられました。


極端になると、そこまで家族の関係が壊れてしまうことがあります。ご本人がご自宅に帰りたくても、お一人では生活が難しい場合、どうしてもご家族の受け入れが必要になります。ご家族が悩みながらも、在宅医療を選択するということは「家で看たい」という想いがあるわけですよね。でも、認知症の症状のせいでそれができないとなる場合、そこは、お薬をうまく使えば、案外いい塩梅になって、お家で過ごせるようになることがあります。


ご家族から「お看取りまで自宅で過ごすことができて良かった」とお声をいただいた時は、本当に嬉しい。どれだけ治すかよりも、実際の暮らしでは、そういう家族の関係性の部分が切実で、重要になることがこれまでも多々ありました。


福田医師 僕は、特に終末期医療に力を入れています。がん末期の患者さんは、他の慢性の病気が辿る過程と違い、病気の経過がある程度予測がつきます。だからこそ、最期までご本人の望みに耳を傾けて、相談して、できることの選択肢を広げていける。

※終末期(ターミナル期):病気や老衰が進行し、これ以上の治療による回復が見込めず、死が避けられないと複数の医師が判断した人生の最終段階のこと


ご本人の「これがやりたい」「これはやりたくない」に、医療者として応えながらやっていく。それが在宅医療では可能なんです。


小畠院長 そういう、正解を一つに絞らないという姿勢が、在宅医療の自由さでもあり、責任でもあると思います。

夜中に具合が悪くなったら

ー お家で過ごすとき、多くの方が心配されるのが、夜中に急に具合が悪くなったときのことだと思います。24時間365日体制だと伺いましたが、どのように対応されていますか? 


小畠院長 基本的には、うちのクリニックだけではなく、他の事業所さんたちと連携しながら地域医療チームをつくって患者さんをサポートしているんです。基本的にうちのクリニックだけではなく、24時間対応の訪問看護ステーションに入ってもらっていて、患者さんに何かあったら、まず訪問看護師さんに連絡してもらいます。病院でいうナースコールみたいなものですね。


電話で解決できることもあれば、訪問看護師さんが見に行って、ちょっと処置をして終わることもある。その上で、これはクリニックに相談したほうがいいな、と看護師さんが判断したら、うちに連絡が来て、すぐ対応します。 往診が要るのかどうかを、患者さんが自分で判断するのは難しいですから。それに、すぐその場に行けるのも、訪問看護師さんの方が早いんですよね。


患者さんの日常をよくご存知で、信頼がある訪問看護師さんを中心に夜間対応していく方が、何より患者さんが安心されるんです。 とても頼りになる存在です。

※訪問看護師:病気や障害を抱える方のご自宅を訪問し、主治医の指示に基づいて医療ケアや日常生活のサポートを行う看護師。



ー 医師が家に向かう「往診」が必要になった時は? 


小畠院長 はい。訪問看護師さんが「医師の往診が必要」と判断した場合、当院の看護師を中心とした宅直スタッフに連絡が入って、医師が向かいます。 夜間の往診は、これまで外部の医師にお願いしていたのですが、それを今は、クリニックで訪問診療を担当している医師が行くようにしました。患者さんやご家族の、いつもの医師が来てくれる安心感や一貫性を大事にしたいと思っています。 

※訪問診療:「計画的・定期的に」訪問する※往診:急な体調不良などに「臨時で」対応する


ー そこには、どんな思いがあったのでしょうか? 


小畠院長 当院の理念には "三方よし" があります。ただ、今は患者さんにとって、完璧な "よし" じゃない。まあまあ悪くはないという感じでした。疲弊せずに継続していくことも重視しながら、体制が整ってきた今、医者である僕らも少し大変になって、スタッフの人たちにも少し大変になってもらって、その分、患者さんの "よし" を太くする。僕達も柔軟性をもちながら、力強く支えられる存在であろうと思った経緯があります。



医療だけでは、暮らしは支えられない

ー 地域の多職種との連携、特に介護の分野とはどのように連携されていますか? 


小畠院長 医療の分野では「指示を出す」という意味で、恐らく医者がリーダーのような役割を担っているのですが、介護ではケアマネジャーさんがリーダーなのかなと思っています。患者さんの暮らしをみながら、サービスを組み立てていく役割がありますから。患者さんの生活を想定して、ヘルパーさんに入ってもらったり、ショートステイや施設を選んだり、それを家族さんに提案したり。


もう一人のリーダーなんです。患者さんのご自宅に、手すり一つ付ける。介護の合間にショートステイ一つ提案する。それで生活が変わりますから。

※ケアマネジャー(介護支援専門員):介護を必要とする方が適切な介護保険サービスを受けられるよう、ケアプランの作成や関係者との連絡調整を行う専門職。※ショートステイ(短期入所生活介護など):要支援・要介護認定を受けた方が短期間だけ介護施設に宿泊し、食事や入浴、排泄などの介護や機能訓練を受けられる介護保険サービス。


ー 福田先生はいかがですか?

福田医師 ケアマネさんとはよくお話しします。こちらが伝える前に、もう先に動いていただいていることも多くて、本当にありがたいです。患者さんのご自宅で、家族さんやと思って丁寧に説明してたら、実はケアマネさんだった、ということもあります(笑)。 


小畠院長 それでいいんです。患者さんに関わる方に、情報が丁寧に共有されるほど、サービスの質も、段取りも早くなりますから。 医師の中でも「怖い先生」みたいな人もいるじゃないですか。そうなると、患者さんは相談しにくい、医療や介護の関係者ですら、聞きにくかったりするんじゃないかと思うんです。何も良いことがないんですよね。だから、僕たちは相談しやすい医者でいたいと思っています。




Memento Mori

Memento Mori は、「わたしたちはどう生きたいのか、どう死にたいのか」十人十色の「自分」という存在の美しさ、「いのち」がある今の喜びを探求し表現するための情報をお届けするメディアです。 自分とまわりの環境とのつながりの中で、安寧を感じ幸福な状態を指すスピリチュアル・ウェルビーイング思想を基軸として、答えのない問いから一人ひとり違う生き方を見つめるヒントをお届けします。