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喋らないことを選んだ幼少期と恋の力
ー心理学に興味を持たれたのは、なぜだったのでしょうか。
なんででしょうね。高校の卒業アルバム文集に夢を書く欄があって、そこに「心理カウンセラー」と書いたんです。心に興味があったんでしょうね。 今思えば、多分、それは夏目漱石の『こころ』を読んだあの頃から始まっていたのかもしれない。
ー幼い頃はどんな子だったのですか?
私は、喋らない子どもでした。病気かと思われるぐらい。喋れたけれど、喋らないことを選んでいたと思います。
ー喋れなかったではなく、喋らなかった。
家族がとても激しかったからかもしれません。儲からないカメラ屋をやっていました。両親は仲はいいけれど、大喧嘩をしょっちゅうしていて、家の中はいつも激しかった。兄も含めて全員、芸術肌なんです。 母は洋裁をしていて、センスが良かった。
でも、兄が一番センスがいいかな。絵を描いたらすごく上手い。みんな変わっていました。全員の気性が激しかったから、私が大人しくすることで、家族が落ち着くと思ったんでしょう。 ー小さな体で、まとめていたんですね。
怖がりでもありましたし、夫婦喧嘩がとても怖かった。でも、私が少し悲しそうな顔をすると喧嘩が収まることもあって。 小学校1年の家庭訪問のとき、担任の先生に「喋らないんですが、大丈夫でしょうか」と心配されたほどです。
でも、自分の中では喋れたんです。頭の中では文字が動いてたりしていたから。 今、講座をするようになって、ようやく喋れるようになったんですが、大人になっても上手く喋れないこともありました。今でも、心を乗せて喋るのは下手です。
子どもに対しても、「あんたのこと想ってるで」なんて、なかなか言えないし、多くの女の人のように、心を動かしながら「嬉しいわ、ありがとう」と泣く事もできない。 でも、その分書けるんだと思います。
ー書くと、表現できる。
喋れなかったから、書いたのかもしれないです。 専門家によれば、感じ過ぎたんだろうと言われています。家族を見てたら、気質もあるかなと思います。すごい激しさで、お茶碗は割れるし。甘えたこともないし、ずっと家が苦しいと思い込んでました。
今振り返ると、ピアノも習ってたし、大阪の普通の家やったと思うんです。
ー家族の前では喋っていたんですか?
喋らなかったです。
ーいつから、喋ろうとされたのでしょうか?
記憶にあるのは、中2、中3ぐらいかな。先生を好きになって、日記を書いて、ブラスバンドの友達に「先生が好きやねん」と言うて。その頃から喋ってるような気がします。喋りたかったんですね。
ー何となくですが、作品は恋の話が多いですか?
そう思います。でも周りからは「恋は書かんほうがいい、下手やから」とよく言われるんです(笑)。私の恋はいつもプラトニックで、性を生々しく書けないんですね。 今は恋を書きたいとは、あまり思わないけれど。
でも、なんかね、大きかったです。私の中の恋は、すごく大きかった。よく「私の行動はすべて下心」と言っていました。好きな人に会いたいから、会を開く。そんな感じです。 多分、ブラザーコンプレックスとか、ファザーコンプレックスとかがあったと思います。
子どもの頃に、全然甘えられなかったので。やっぱり好きになった人はみんな、なんか似てますわ、父親に。その穴を埋めるように、恋をしていたのかもしれません。
ーなるほど、それもいつの間にか解消されて。
解消されて。やっぱり、この5年間はすごく大きかったです。
心に響く文章を伝えていきたい
ーこの5年間というのは?
書きたい対象が、この5年間で全く別のものに変わりました。以前は恋愛とか、大人の恋とかを書きたかった。でも、今は、世の中のことを書きたいですね。 世の中のことや日本の歴史、もっと大きなもの、宇宙人のこととかに興味があります。
そういう世界を、時空を超えて、少しファンタジーを入れて、小説にしたいです。
ー人間の本質みたいなところを突いてほしい。
そこを書きたいです。今、小説家になりたいという想いは、本当に消えたんですが、新人賞を取るような作品が書けたら嬉しいなと思います。小説家たちを「おぉ!」と唸らせたい。プロの作家は新人賞以上の作品は描けないだろうという噂もあるぐらい新人賞は面白い。そんなぐらいの作品が描けたらいいな、という夢はあります。
ーここまでお話を伺ってきて、改めてですが、その原点はどこにあるのでしょうか?
原点は、あの時の『こころ』にあると思うんです。人間ってどうしてこうなるんだろう、しょうもないところもあるし、でも、ものすごくすごいところもある。そういう人間の姿が、私は好きなんだと思います。 世の中の文章を変えたい、とまでは思っていません。
でも、最近は、SNSでの広告文章がさらにひどくなってきたと感じます。AIが出てきて、型通りの文章ばかりで、もったいないし、やっぱりなんだか気の毒に思うことがあります。 でも、私の所に来てくださる方は、そういう違和感に気づいている人ばかりです。
私は、その人たちに、本来の日本語の文章を伝えていきたいと思っています。
取材後記
インタビューを終えて、彼女にとって言葉は、想像していた以上にずっと深く、大切なものなのだと感じた。幼少期から現在に至るまでの物語を聞き、彼女にとって《書くこと》は、単なる技術や表現ではなく、自分の奥底に浮かぶものを丁寧にすくい上げる行為なのではないかと思う。 幼い頃、激しい家族の中で喋らないことを選んだ彼女は、声の代わりに書くことで、世界と繋がった。
その繊細で大切な感覚は、後に夏目漱石の「こころ」と出会い、人間の心の暗部に触れた。誰もが、弱さや愚かさを抱えて生きているのだと、分かりたくはないけれど、それでも愛さずにはいられない心を知る真理との出会いだったのかもしれない。
多感な時期に、涙を流しながら「こころ」を読んで、書き込み、感想文を書き上げた、その姿を想像するだけで胸打たれるものがある。本来の言葉には、人を癒す力や愛を届ける力があると知っている彼女が、心を無視したり、操作するような言葉に心を痛めることは自然なことのように思える。
彼女が言葉を通して観る世界には、人間のもろさも、愛しさも、そして生きる力も宿っているように感じる。これから、その世界がどのように広がり、誰の心に触れ、どんな世界を照らしていくのか。その行方を、見たい。そう思う。
PROFILE
仲谷 史子 Fumiko Nakatani
My Precious Story 代表
1965年生まれ
大阪府立市岡高校、大谷大学卒業
日本文学士、高校教諭免状取得
文芸と心理学を基盤として、2015年に大阪で『心に響く文章講座』を開講。
少人数制の教室を続け、講座開催1200回以上、卒業生400名を越える。
心に響く文章講座
▶︎ホームページ(映像版) https://www.kokoronihibiku-bun.com/
▶︎Facebook https://www.facebook.com/share/16giwzfyLp/?mibextid=wwXIfr
〈文芸〉
大阪文学学校小説科卒業(在学41歳〜49歳)
大阪女性文芸賞、予選通過
オール讀物新人賞、一次選考通過
林芙美子文学賞、一次選考通過
宮本輝・北日本文学賞、二次選考通過3回
100人共著プロジェクトにてエッセイを出品、最優秀賞受賞(2回)
文芸思潮エッセイ賞、三次選考通過
児童文学草原賞、佳作受賞
2018年より文芸誌『月刊ふみふみ』を出版(出品者、文章講座卒業生多数)
〈心理学〉
関西カウンセリングセンターにて、心理カウンセラーアドバンス修了(29歳)
心理探究者、心理カウンセラーの上野大照に師事。
オフィス・コミュニケーションズ認定、心匠セラピスト(心理カウンセラー)(49歳)
国際ブリーフセラピー協会(旧、日本ブリーフセラピー協会)認定、ブリーフセラピスト(短期療法)(53歳)
国際ブリーフセラピー協会の学術大会にて発表。
『小説に存在する行間の効力』
『行間があるストーリーの作り方』
文章に存在する行間がセラピーになる研究事例を、物語療法と関連させて紹介。
取材
はぎのあきこ Akiko Hagino
フリーインタビュアー・サロンオーナー・ウェルビーイング思想家
誰もがそれぞれの "いのち”を生きている。その尊さに触れながら、他者とつながり合う営みを軸に、医療・教育・創作・ケアの四つの領域で活動しています。
◾️インタビュアー・WEB マガジンサイト運営
さまざまな人間の言葉にならない想いや、生きるという営みを読むインタビューサイト《memento mori》を運営。自らインタビュアーとして、いのちのことばに触れる対話をしている。
◾️看護分野講師・在宅医療ファシリテーター
看護師(看護学修士)・保健師として、大学や看護専門学校で「人間関係論」の授業や臨床実習指導を担当。在宅医療専門クリニックでは、ファシリテーター・広報として、情報発信や院内研修、チームづくりに関わっている。
◾️セラピスト・サロンオーナー/オーガニックコスメブランドオーナー
人の成長や癒しに携わる方専用のサロン《organic care salon KAMUNA》を営み、オーガニックスキンケアとホリスティックケアを融合した施術を提供。
また、日本の植物の力を借りて「根を張り、潤い満たされる」をコンセプトに、オーガニックコスメブランド《KAGURA》を立ち上げた。
◾️おまもり創作アーティスト
法術や氣功の叡智を師より受け継ぎ、仲間と《おまもり屋KAMUNA》を立ち上げる。暮らしの中に発生する滞りを流すことで、運氣の流れを変え、本来持つ力を発揮できるようにサポートするおまもりを創作。
Akiko Hagino lit.link : https://lit.link/akikohagino
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